2020-01-01から1年間の記事一覧

「吠えない犬ー安倍政権7年8カ月とメディア・コントロール」 感想

民主主義国家にとって主権者は国民である。であれば、国民による政府へのフィードバックが成されなければ民主主義は破綻し、全体主義が国を支配するだろう。 しかし、フィードバックに必要な情報を必ずしも政府が全て公開しているわけではない。ジャーナリス…

「それでも日本人は『戦争』を選んだ」感想

人は歴史から教訓を得られる。歴史を解釈し、正しく教訓を得ることができれば、それは数世紀先を見通す知識となる。ルソーは戦争について論文を書き、世紀をまたいで適用できる原則をみつけだした。 しかし一方で、人は歴史にとらわれることもある。アメリカ…

「戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗」感想

満州事変から真珠湾攻撃まで、大日本帝国はどのような制約条件のなか世界の国々と交渉をしてきたのか。本書では当時の状況を「リットン報告書」、「三国同盟」、「日米交渉」の3つの交渉から史料をもとに読み解く。 天皇のもとに横並びの内閣と陸海軍、軍部…

「バッタを倒しにアフリカへ」感想

本書はバッタの魅力に捕らわれた1人の日本人(前野ウルド浩太郎氏)が、バッタと職を求めて奮闘する様子を記録した研究エッセイである。 本書では、筆者の五感に訴える表現と率直な心情描写で、サハラ砂漠の厳しい気候や、日本では考えられない脅威(テロや毒…

「やがて恋するヴィヴィレイン 1」感想

戦場で想いを寄せ合った男女は、戦争が終わったとき、平和によって切り裂かれる。二人の再会は新たな戦乱をもってしか果たされないのか。「やがて恋するヴィヴィレイン」は「とある飛空士の追憶」を書いた犬村小六氏が描く戦争ロマンスファンタジー小説であ…

「一九八四年」感想

権力を至上の目的とした社会がどのような変貌を遂げるのか。「動物農場」の作者であるジョージ・オーウェル氏がその慣れの果てをシミュレートし、描いているのが本作「一九八四年」ではないだろうか。 本書で登場するオセアニアという国は、日常的に歴史の改…

「アステリズムに花束を」感想<後編>

[月と怪物]著:南木義隆 共感覚の持ち主であったセーラヤは、妹ソフィーアとともにスラムから国の特殊能力研究施設に送られる。研究施設での生活で、セーラヤは軍人のエカチェリーナと次第に親しい関係になっていく。しかし、同性愛がバレた二人は引き離され…

「転生勇者が実体験をもとに異世界小説を書いてみた」感想

ジャンプの小説レーベル JUMP J BOOKS にて掲載されている乙一氏による恋愛短編小説。 https://j-books.shueisha.co.jp/file/tenseiyusha.html 現代日本に転生した異世界勇者が、自らの冒険譚を「シーリム」と題して小説投稿サイトに投稿する。小説投稿サイ…

「アステリズムに花束を」感想<前編>

SF×百合というテーマのもと9話の短編が収録された本書。百合というジャンルを読んだことがなかったが、人の感情を扱っているジャンルとして興味があったため、手に取った。初めてのジャンルでありながら、その登場人物の感情を紐解いて読み進めるのはとても…

「滅びの園」感想

私は恒川光太郎氏の小説が好きである。 滅びの園はその恒川光太郎氏が描くSFファンタジーである。ホラー作家として知られている恒川氏がどのようなSFファンタジーを描くのか、楽しみだった。 恒川氏が本作で描く主人公は日常に疲きったサラリーマン鈴上誠一…

「動物農場[新訳版]」感想

この本を読んだ読者は「さて、自分は一体どの動物だろうか?」と思い悩んでしまうだろう。勿論、読者は人間なのだが、そのくらいこの本はよく人間の社会を風刺している。 この物語の始まりは人間の農場主であるジョーンズを動物たちが農場から追い出すところ…

「チェ・ゲバラの遥かな旅」感想

強者が弱者を搾取する。そんな残酷な原理に憤る感情を、青臭いと一蹴するのは簡単なことだ。しかし、そんな残酷な原理に命を賭けて立ち向かい続けた男がいる。 エルネスト・ゲバラ(通称チェ・ゲバラ)は、フィデル・カストロ等と共にキューバ革命を達成した…