「バッタを倒しにアフリカへ」感想

本書はバッタの魅力に捕らわれた1人の日本人(前野ウルド浩太郎氏)が、バッタと職を求めて奮闘する様子を記録した研究エッセイである。

 

本書では、筆者の五感に訴える表現と率直な心情描写で、サハラ砂漠の厳しい気候や、日本では考えられない脅威(テロや毒虫、砂漠の夜の暗闇...etc)、そしてそこで強かに暮らす人々のことが、生々しく描かれている。モーリタニアという国に関して一切知見がなかったが、筆者による詳細な描写と写真のおかげで、読みながらリアルなアフリカの空気を感じた。

 

日本とは全く異なる環境・文化に身を置きながら研究を進める筆者は、就職先への焦りを抱えながらも、研究対象のバッタが干ばつでいなくなったり、特注した実験装置が壊れてたりと、心が折れてしまいそうな経験をしている。それにも関わらず、それをユーモラスに描き、ババ所長や相棒のティジャニに慰められながら、研究を続ける様子に励まされる思いがした。

 

また、読み始めた当初は、蝗害というものが世界的な問題であることは理解したが、日本で資金をだしてバッタの研究をする意義を理解できなかった。しかし、筆者が研究資金を得るため応募していた白眉プロジェクトの面接で、松本総長の次のような言葉を読んで、目が開く思いがした。

 

「過酷な環境で生活し、研究するのは本当に困難なことだと思います。私は一人の人間としてあなたに感謝します。」

 

この言葉から感じられるあまりの器の大きさに敬服した。世界の問題を解決しようと取り組む研究者に国境は関係ないのだ。研究者という仕事のスケールの大きさに、素直に格好いいなと感じた。そして、日本が自国から遠く離れた異国の問題解決にも資金を支出したことに誇りを感じた。 

 

試しにGoogle Scholarで検索してみたが、現在も筆者(Maeno Ould Koutaro)はバッタの研究を続けられているようだ。

 

今後も筆者の研究活動が、実り多きものでありますように。

 

「バッタを倒しにアフリカへ」著:前野ウルド浩太郎 光文社新書 2018年5月15日 13刷