「滅びの園」感想

私は恒川光太郎氏の小説が好きである。

滅びの園はその恒川光太郎氏が描くSFファンタジーである。ホラー作家として知られている恒川氏がどのようなSFファンタジーを描くのか、楽しみだった。

 

 恒川氏が本作で描く主人公は日常に疲きったサラリーマン鈴上誠一である。

ある日、鈴上が電車で出張から帰っている途中、気づけば知らない街に迷い込んでいた。不思議なことに街には地図がなく、住人はトウキョウを知らなかった。初めは帰ろうとしていた鈴上だったが、住人が親切で、のどかな時間が流れるその街を気に入っていく。
 街での生活にも慣れ、新たに家庭を築いていた鈴上の前に、ある日中月活連と名乗る男が現れる。そして、活連からかつて自分が暮らしていた世界が滅亡の危機に直面しており、滅亡を回避するためには鈴上が今いる世界を破壊しなければならないと告げられる。
 地球の滅亡と自分の幸せを天秤にかけたとき、鈴上はどんな選択をするのか?彼の心を動かすものは何なのか?

 

 また、本作では主人公の鈴上誠一以外に、地球の滅亡を食い止めるべく奔走する人々の視点からも物語が描かれている。
 鈴上消失とともに空に現れた未知なるものは、世界中でプーニーの発生を引き起す。プーニーの影響で地球上の生物は滅びに向かってく。プーニーの出現によって変容した人間社会で、様々な価値観を形成していく登場人物達。それぞれの視点で物語が進むにつれて、鈴上の囚われている異世界の真実が次第に明らかになるのである。

 

それぞれの物語が収束した先にどんな結末を迎えるのか、気になりすぎて読み終わるのはあっという間だった。恒川氏の描く世界を楽しんだ後で、「やはりただのSFファンタジーでは終わらなかったな」と内心ニヤニヤが止まらなかったのは認めざるを得ない。

 

「滅びの園」著:恒川光太郎 角川書店 2018年5月31日 初版